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高松高等裁判所 平成6年(け)2号 決定 1994年7月25日

主文

本件異議申立てを棄却する。

理由

一  本件異議申立ての趣旨及び理由は、別紙「異議申立書」(写し)記載のとおりである。

二  そこで、検討するに、当裁判所も、申立人に対する刑事補償は、原決定が認容した限度において認容されるべきものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原決定の理由記載と同一であるから、これを引用する。

1  申立人は、原決定は、旧刑事訴訟法五五六条一項二号を適用して、原第二審における未決勾留日数三二一日を補償の対象から除外したが、右規定は、上訴が理由があるとして認められた場合に上訴審における未決勾留日数が全部法定通算される旨の規定であるところ、申立人につき、本件殺人の事実について無罪の言渡しを受けたのは、「上訴」が認められた結果ではなく、再審請求が認められたからに他ならないから、前記規定を適用することはできないと主張する。

しかしながら、再審開始決定が確定した事件については、それぞれの審級に従って、新たに審理がなされる(刑事訴訟法四五一条)のであって、本件の場合、前記無罪の言渡しを受けた再審判決は、同事件について高松地方裁判所が昭和二二年一二月二四日言い渡した有罪判決に対する新たな控訴審における判決であり、その結果、控訴が理由があったのであるから、旧刑事訴訟法五五六条一項二号が適用され、原第二審における未決勾留日数三二一日は、上訴申立て後の未決勾留日数として本刑に算入されることになる。したがって、右日数につき、刑事補償法一条一項による補償の余地はないものといわざるを得ない。

申立人のこの点の主張は採用できない。

2  次に、申立人は、本件再審判決は、有罪の窃盗等の罪について執行猶予を付し、その際、原審における未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入したが、その判決言渡し時点では、右猶予期間は既に経過しており、実質的に執行猶予期間がなかったのと同様で、申立人は未決勾留日数が本刑に算入されることによる利益はまったく享受していない。このように算入されても請求人にとって何らの利益にならない未決勾留日数を刑事補償の対象から除外することは、憲法四〇条及び刑事補償法一条、三条二号に違反すると主張する。

しかしながら、本刑に裁定通算された未決勾留日数は、その刑が実刑である場合はもとより、執行猶予付の場合においても、未決勾留日数としては、刑事補償法一条一項の補償の対象とはならないものと解するのが相当である(本件のように未決勾留日数を本刑に算入する判決が確定した以上、その判決言渡し時に既に猶予期間を経過し、猶予の取消しを観念し得ない場合においても本質的差異はなく、これを別異に解する理由は見出しがたい。)から、右の点につき所論の違法はない。

申立人の右主張もまた採用できない。

三  結論

よって、本件異議申立ては理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(別紙「異議申立書」は省略)

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